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中国の輸出管理法の解説 ――Q&Aシリーズその一:中国における輸出管理の基礎知識 (前編)

2025-05-30/ 弁護士コラム/

弁護士 焦 陽

 

経済のグローバル化が進む今日において、越境貿易と外商投資は世界経済の増長を推進し、資源の合理的な配分を促進する上での重要な原動力となっている。その一方で、国際的な安全環境の段階的な複雑化に伴い、国家の安全・経済的利益・外交政策・国際的義務の間における均衡を図るための肝要な手段として、輸出に対する管理は各国が新型の国際経済貿易規則を制定する上での核心的な議題のうちの一つとして取り上げられている。2020年12月1日の「中華人民共和国輸出管理法」(以下「輸出管理法」という。)の正式な実施以降、「中華人民共和国デュアルユース品目輸出管理条例」(以下「デュアルユース品目輸出管理条例」という。)等の重要な関連法規の公布と実施に伴い、中国においては「輸出管理法」を核心とする輸出管理の面における法体系が形成されており、中国の輸出管理は統一化と体系化の新たな段階に入っている。中国との貿易に従事される企業と対中投資に従事されている方々にとって、中国の輸出管理の面における法体系に対する深い理解は、戦略的な意思決定、リスクの管理およびコンプライアンス経営の実現を行われる上での「必修課目」となっている。

本シリーズにおいては質疑応答の形式をもって実務の観点から中国の輸出管理の面における法体系に対する解析を行う。初回の本稿においては当該体系の下における各業務に責任を負う政府機関・義務主体・管理品目・対象行為(これらの四項目は本号にて掲載)や、管理政策・法的責任(これらの二項目は次号にて掲載)などの基礎的な問題に焦点が当てられている。輸出管理上のコンプライアンス体系の構築、リスクの防止などのテーマをめぐる後続の掘り下げた検討のための基礎を固めるとともに、本稿が中国における輸出管理上の基礎的な知識を容易にご理解いただく上での一助となれば幸いである。

 

Q1:どのような政府機関中国輸出管理に責任を負っているのか

A1:国務院と中央軍事委員会の輸出管理の職能を担う部門(以下併せて「国家輸出管制管理部門」という。)が職責の分担に従って輸出管理の面における業務に責任を負っている。国務院と中央軍事委員会のその他関係部門は職責の分担に従って輸出管理に係る業務に責任を負っている。

中国の輸出管理体制は、それをデュアルユース品目輸出管制管理体制、軍用品輸出管制管理体制、および核輸出管制管理体制に分けることができる。各体制下における主管政府機関は具体的には下表のとおりとなっている。

分類

総体的な

特徴

主管部門

デュアルユース品目輸出管制管理体制

監視化学品以外のその他の関連業務は主に商務部が主導し、その他の政府機関はこれに協力する

核デュアルユース品目の輸出

商務部が国家原子力機構と共同で管理を行う

生物類デュアルユース品目の輸出

商務部が必要に応じて農業農村部、国家衛生健康委員会などの部門と共同で管理を行う

関連化学品類デュアルユース品目の輸出

商務部が管理を行う

ミサイル類デュアルユース品目の輸出

商務部が必要に応じて国家国防科学技術工業局、中央軍事委員会装備発展部などの部門と共同で管理を行う

商用暗号の輸出

商務部が国家暗号管理局と共同で管理を行う

監視化学品の輸出

工業情報化部が商務部と共同で輸出業者の資格に対する管理を行う。工業情報化部が具体的な輸出審査に責任を負う

軍用品輸出管制管理体制

-

軍用品の輸出

国家国防科学技術工業局と中央軍事委員会装備発展部が職責を分担して管理を行う

核輸出管制管理体制

-

核の輸出

国家原子力機構と商務部がその他の部門と共同で管理を行う

このほか、外交政策に関わる管理品目の輸出は上述の主管部門が外交部と共同で審査を行う。

また、税関総署も中国における貨物の出入国に対する監督管理に責任を負う主要な機構として管理に関わる部門との緊密な連携の下、管理品目の輸出に対する監督管理の法による実施、違法輸出案件をめぐる調査・処理への参加、リスクの予防・制御、監督、法執行などの関連業務を展開している。

 

Q2:どのような主体中国輸出管理に関心を払なければならないのか

A2:

1) 輸出業者

輸出業者は中国における輸出管理の主要な監督管理対象として、管理品目の輸出に従事する場合には、「輸出管理法」とこれに関わる法律・行政法規の規定を遵守しなければならない。

ここで注意しなければならないのは、「輸出管理法」には「輸出業者」に対する明確な定義が行われていないことから、実践においては「輸出業者」に対する広義的な解釈が行われる余地が存在している、という点である。「輸出管理法」の規定によると、輸出行為には管理品目の提供行為が含まれており(具体的にはQ4への回答欄をご参照いただきたい。)、管理品目には品目に関わる技術資料等のデータも含まれていることから、ハイテク企業や商業的な性質をもつ研究機構などが輸出管理の範囲に属する技術・情報を中国国外の個人・組織に提供する場合においては、これらの企業・機構も「輸出管理法」の下における輸出業者に該当するものとみなされる可能性がある。

2) 第三者サービス提供者

これらの「第三者サービス」には輸出業者に提供する代理、貨物輸送、郵送、通関申告、第三者電子商取引プラットフォーム、金融などのサービスが含まれるが、これらに限定されない。輸出業者が輸出管理の面における違法行為に従事していることを明らかに知り得ているにもかかわらず依然として上述のサービスを当該輸出業者に提供する第三者サービス提供者を対象としては、「輸出管理法」上、相応の法的責任の負担が当該サービス提供者に要求されている。よって、取引の相手方に対するコンプライアンス調査の展開に対する重視と、違法性の存在を明らかに知り得ている場合における輸出管理法違反取引の促進の可能な限りの回避が、サービス提供者に要求されている。

3) 輸入業者・エンドユーザー

「輸出管理法」においては輸入業者とエンドユーザーの義務がそれぞれ課せられている。エンドユーザーまたは最終用途が変更される可能性に気が付いた場合には、輸入業者は規定に従ってこれを直ちに国家輸出管制管理部門に報告しなければならない。エンドユーザーは国家輸出管制管理部門の許可を経ずに管理品目の最終用途をみだりに変更することができず、かつ、これをいずれの第三者にも譲渡することができないことに関する確約を行わなければならない。

さらに、国家輸出管制管理部門は規制リスト(具体的には次号のQ5への回答欄をご参照いただきたい。)を通じて輸出に対する管制管理を展開しており、規制リストに組み入れられた輸入業者やエンドユーザーと輸出業者との間における取引は、極めて大きな制限を受ける可能性がある。ゆえに、輸入業者とエンドユーザーは時宜を得て中国の輸出管理の動向に関心を払い、自らの規制リスト等への属否を確認しなければならない。

4) 中国国外の個人・組織

「輸出管理法」においては域外の管轄も規定されており、「輸出管理法」に違反して中国における国家の安全と利益を脅かし、拡散防止等の国際的な義務の履行を妨害する中国国外に位置するいずれの組織または個人も、一律に法により処罰され、その法的責任が追及される。

また、「輸出管理措置を濫用して中国における国家の安全と利益を脅かすいずれの国家または地区に対しても、中国は実際の状況に応じた措置を対等に採択することができる」という旨も、「輸出管理法」においては規定されている。これらの対等な措置の採用により当該国家・地区の個人・組織による経済的な行為への従事に影響が及ぶ可能性もある。

 

Q3:中国ではどのような品目管理されているのか

A3:中国の輸出管理法の下における管理品目には、ただ貨物が含まれているだけではなく、さらには技術、サービス、管理品目に関わる技術資料等のデータも含まれている。用途に応じて管理品目は以下の四種類に分けることができる。

分類

詳細な説明

デュアルユース品目

民事用途を有しており、かつ、軍事用途も有しているか、または軍事的な潜在能力の向上に資し、特に、大量破壊兵器とその運搬手段の設計・開発・生産・使用に用いることのできる貨物・技術・サービス

軍用品品目

軍事目的に用いられる設備、専用生産設備その他の関連する貨物・技術・サービス

核品目

核物質、核設備、原子炉非核物質およびこれに係る技術・サービス

中国における国家の安全と利益の保護および拡散防止等の国際的な義務の履行に係るその他の品目(包括的な性質)

-

 

実践において管理品目の多くは輸出管理リストと臨時的管理品目の中に既に組み入れられている。しかし、包括条項が存在していることから、管理範囲に属している一部の品目は、輸出管理リストと臨時的管理品目の中には明確に列挙されていない可能性もある(具体的には次号のQ5への回答欄をご参照いただきたい。)。

 

Q4:中国ではどのような行為管理る可能性があるのか

A4:「輸出管理法」において管理されている行為には次のものが含まれている。

1) 管理品目の中国国外への移転:管理品目を中国国内から中国国外に移転する行為

2) 管理品目の提供:中国の公民・法人・非法人組織が管理品目を中国国外の組織・個人に提供する行為。管理品目が越境移転されるのか否かにかかわらない。

3) 管理品目の「過境」「転運」「通運」:管理品目を中国国外から発送し、中国国内を通じて引き続き中国国外に運輸する行為。「税関法」における定義を参考にすると、「過境」とは、中国国内の陸路を通過して運輸する行為をいう。「転運」とは、中国国内に設置されている税関の地点において運輸手段を切り替え、中国国内の陸路を通過せずに運輸する行為をいう。「通運」とは、船舶・航空機などにより入国し、元の運輸手段のまま出国する行為をいう。

4) 管理品目の「再輸出」:「輸出管理法」と「税関法」においては「再輸出」に対する明確な定義は一律に行われていない。商務部国際貿易経済協力研究院(CAITEC)の説明[1]によると、「再輸出」とは、既に輸出されている管理品目を中国国外においてある国家から別の国家に改めて輸出する行為をいうものとされている。

5) 保税区・輸出加工区等の税関特別監督管理区域および輸出監督管理倉庫・保税物流センター等の保税監督管理場所から、管理品目を中国国外に輸出する行為

 

(次号につづく)

 


[1] 関連説明資料は、下記のURLをご参照ください。http://exportcontrol.mofcom.gov.cn/article/hgfw/pxzl/202112/577.html



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