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「不正競争防止法(2025年改正)」―域外適用条項について

2025-09-29/ 弁護士コラム/ 劉雪弁護士

2025年6月27日、第十四回全国人民代表大会常務委員会(以下「全人大常務委員会」)第十六回会議において、「中華人民共和国不正競争防止法(2025年改正)」(以下「新不正競争防止法」)が可決され、2025年10月15日から施行されることが決定されました。今回の改正にともなって新設された第40条の域外適用条項は、中国の不正競争防止法が中国国外でも適用され、中国国外で発生した不正競争行為が中国当局の管轄下に置かれる可能性を示唆しています。この改正は、中国市場に関与する日系企業を含む多国籍企業にとって、多大な影響を及ぼすことが予想されます。

一、域外適用条項の立法沿革と要件

1. 立法沿革

域外適用条項は、2024年12月25日に全人大常務委員会が公開した「不正競争防止法(改正草案)意見募集稿」(以下「意見募集稿」)第40条に初めて登場しました。同条に、中国国外で実施された不正競争行為が中国国内の市場競争秩序を乱し、または中国国内の事業者の合法的権益を侵害した場合、中国の不正競争防止法および関連法令に基づいて処理されるべきとあります。この条項は「効果主義」を採用しており、すなわち、行為の決定地や実行地、または行為者が本司法管轄区内にいるかどうかに関わらず、その行為が本司法管轄区内の競争秩序に影響を及ぼしうる場合、本司法管轄区の当局がその行為に対して管轄権を行使できることを意味します。同条がそのまま施行されれば、法定の結果が生じた場合、中国当局は中国国外の不正競争行為に対して管轄権を行使することができるということです。

2025年10月15日から正式に施行される新不正競争防止法は、域外適用条項の「効果主義」を維持しつつ、その適用範囲を一部変更しました。具体的に、新不正競争防止法第40条では、中国国外で実施された不正競争行為が、中国国内の市場競争秩序を乱し、中国国内の事業者または消費者の合法的権益を侵害した場合、中国当局はその行為に対して管轄権を行使できるとされます。意見募集稿と比較すると、新不正競争防止法では「消費者の合法的権益への侵害」という要件が追加されました。この改正により、域外適用条項の適用範囲は一定程度拡大され、不正競争防止法の目的である事業者および消費者の合法的権益の保護と高い整合性を保ちつつ、中国国内消費者の権益保護も強化されました。また、意見募集稿では「中国市場競争秩序の撹乱 or 中国事業者への権利侵害」のいずれかに該当すれば域外適用効力が生じうるとされていたところ、新不正競争防止法第40条では、「中国市場競争秩序の撹乱 and 中国事業者または消費者への権利侵害」という両要件を同時に満たした場合にはじめて域外適用が可能と変更されました。この変更により、域外適用のハードルが意見募集稿より若干高くなったと言えます。

2. 域外適用条項の要件

新不正競争防止法の域外適用条項の要件は以下の通りです:

• 行為実施地が中国国外にあること。

• 行為の性質が「不正競争行為」であること。これは混同行為、商業賄賂、虚偽宣伝、営業秘密への侵害、不正懸賞販売、商業上の誹謗中傷およびオンライン不正競争行為など、新不正競争防止法第二章に定める各種の不正競争行為を指します。

• 結果発生地が中国国内であること。この要件では、中国国外での不正競争行為は「中国国内の市場競争秩序を乱し、中国国内の事業者または消費者の合法的権益を侵害した」ことが強調されています。これは「効果主義」の核心的な要素です。

• 法令適用。新不正競争防止法および中国の関連法令に従って処理されるべきことが明記されています。

二、法執行の動向

1. 過去の判例の立法化

現在、民事訴訟事件において、中国の不正競争防止法の域外適用に関して、理論的および実務的な障害はありません。「(2021)最高法知民轄終300号(之二)」裁定書において、中国最高裁判所は、当事者が中国国外の不正競争行為によって中国国内で損害を被ったことを理由に提訴した場合、係争対象の不正競争行為によって市場競争秩序に不利な影響を受けた中国という結果発生地を、裁判管轄の連結点として用いることができると明確に判示しました。その法的根拠として、「中華人民共和国民事訴訟法(2017年改正)」第28条(現第29条)および「『中華人民共和国民事訴訟法』の適用に関する最高人民法院の解釈(2020年改正)」第24条(現第24条)の規定に、権利侵害行為に関する訴訟は、権利侵害行為の実施地、権利侵害結果の発生地又は被告の住所地の裁判所が管轄権を有するとされます。つまり、不正競争紛争に関する民事案件においては、係争対象の不正競争行為の実施地、結果発生地、被告住所地にある裁判所が管轄権を有すると解されます。

以上から分かるように、今回の新不正競争防止法第40条は、実質的に中国のこれまでの司法判例を立法化し、中国国外で発生した不正競争行為に対する中国裁判所の管轄権の法的根拠をさらに明確にしたものです。

2. 法執行上の課題

不正競争防止法の改正により、中国当局にとって、中国国外の不正競争行為に対する管轄権行使に明確な法的根拠が与えられました。しかし、法執行の面において、中国当局が外国の事業者に対して直接的に管轄権を行使する際には、以下の二つの課題に直面する可能性があります。

1点目は管轄権の分配です。すなわち、中国国内のどの(地方の)行政庁が管轄権を有するか、という問題です。

2点目は実行可能性です。事件の立憲、送達、調査、証拠収集といった行政権実行の過程において、各国の法制度の相違や国際連携の可否により、実務上の障害が生じる可能性があります。

今後、中国国外で発生した不正競争行為に対する中国当局の法執行は、引き続き関連政策の整備と実務経験の積み重ねを待つ必要があります。

三、日系企業が取りうる対応策

新不正競争防止法の施行後、中国国外での虚偽宣伝、SNSやメディアにおける商業上の誹謗中傷、商業賄賂、オンラインプラットフォームによる中国企業への不当廉売の強要行為などは、中国当局が域外適用条項を運用する際にチェックする対象となる可能性があります。この新たな法規制に対応するために、日系企業には、以下の対策を講じることをお勧めいたします。

1. 中国当局との積極的なコミュニケーション

新不正競争防止法および関連法令の具体的な運用と法執行状況を適時に把握するために、同法の中国における施行状況を注視するとともに、積極的に中国当局と意思疎通を図ることが考えられます。これにより、日常の事業活動において同法を遵守し、不適切な行為による法的リスクを予防する効果が期待されます。

2. 各国のオンラインプラットフォームにおける宣伝・販売管理の強化

新不正競争防止法を遵守するために、各国のオンラインプラットフォームでの製品宣伝、価格設定、アフターサービス等の各段階について、審査を適宜強化することが推奨されます。特に、中国の消費者に誤解を与える虚偽の宣伝等を避けることが重要です。

3. 知的財産権・営業秘密保護のコンプライアンス体系の最適化

不正競争防止法は知的財産権の保護と密接に関連しており、特に営業秘密の侵害や混同行為(例えば、有名商品の特有の名称、パッケージ、デザインの模倣など)に関係しています。そういう意味では、企業にとって、知的財産権・営業秘密保護のコンプライアンス体系を整備し、製品デザインやマーケティングなどにおいて、混同行為や中国国内の営業秘密への侵害を適切に避けることがポイントになります。

四、おわりに

新不正競争防止法の域外適用条項の追加により、中国国外での不正競争行為に対する中国の管轄権の根拠をより一層明確化され、中国の市場秩序、事業者および消費者の権益保護の強化が図られています。日系企業にとって、同法の改正はコンプライアンスの課題となりうる一方で、コンプライアンス管理水準の向上や市場競争力の強化を図る機会にもなりえます。中国市場での安定した運営と持続的な成長を実現するために、同法の施行の動向に積極的に注目し、コンプライアンス管理を強化し、リスクの事前防止メカニズムを構築するなどの対策が推奨されます。

以上

 



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